臨床試験ではエンドポイントとして生存時間や生活の質(quality of life; QOL)を用いることがしばしばある。抗がん剤などの臨床試験では、治療効果を生存時間で評価することが多いが、単純に生存時間の延長のみをモノサシにして治療効果を考えるだけでは十分でない場合がある。たとえば、同じ1年間の生存時間の延長でも元気に生活ができる状態と呼吸器をつけて寝たきりの状態では、その価値が異なる。長期間の生命予後を解析する生存時間解析にはQOLの変化を考慮するしくみがない。したがって、呼吸器をつけたまま生きた患者と呼吸器が必要なく日常的なすべての機能が正常に働いている状態で生きた患者を区別することができない。そこで、生存年数をQOLで重み付けして累積した質調整生存年(quality adjusted life years; QALY)を考える。

  ある健康状態でのQALY  = 【QOLスコア】×【生存年数】

QALYは1年間まったく健康に暮らせたら1、死亡したら0と考え、ある健康状態を0から1までの数値で表す。もし7年間のうち効用値(QOL)が0.7と考えられるような健康に問題のある期間が3年で、まったく健康な期間が4年であったとすると、QALYは (3 × 0.7) + (4 × 1.0) = 6.1となる。

多くの疾患は生存時間とQOLの両方に影響を与えるが、臨床試験ではどちらか一方だけしか評価していないか、両方評価している場合でも、それぞれ別々に評価しているのが一般的である。臨床的な評価としてはそれで十分かもしれないが、薬剤の価値を客観的に評価しようとすると、生存時間とQOLを統合した指標が必要になる。

QALYはグローバルに確立された指標であり、イギリス、アイルランド、ノルウェー、ニュージランドなどは第1選択としてQALYを推奨している。ドイツなどはQALYを第1選択とすることは問題があると考えているが、選択肢として排除してはいない。

QALYの利点としては、次のような点があげられている。
(a) 多くの疾患においてQALYを用いて評価できる。
(b) 複数の効果を同時に評価できる
(c) 結果の解釈がしやすい。

QALYの問題点としては、次のような点があげられている。
(a) 高齢者が不利に扱われる可能性がある。(日本医師会など)
      http://www.med.or.jp/nichinews/n250805c.html
  年齢が増加するに従って平均余命は短くなるため、治療の利得としての高齢者のQALY獲得量は若年者に比べて小さくなる。増分費用効果比(incremental cost effective ratio; ICER)は【増分費用】÷【増分QALY】で計算されるので、分母が小さくなる分だけ高齢者に不利な結果になる。
(b) 多人数の小さな変化と少人数の大きな変化を区別することができない。
  特に救命につながるような大きなQOL変化のときには、多人数の小さな変化よりも少人数の大きな変化に重きを置いて評価すべきだという主張がある。
(c) QALYは健康アウトカムの指標に過ぎず、たとえば家族介護の負担といった社会的価値は捉えられない。

[参考文献]
光森達博. 「医療経済評価の具体的な活用法」, 技術情報協会 (2014)
中医協 費用対効果評価専門部会の議事録・資料
  http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000008ffd.html#shingi128159
日本医師会.  日医ニュース「費用対効果評価導入について」, 第1246号(平成25年8月5日)
  http://www.med.or.jp/nichinews/n250805c.html
鎌江伊三夫. 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス, 43, 686-692 (2012)

[Keyword] quality adjusted life years, QALY, quality of life, QOL, life year, lifetime analysis, survival analysis, incremental cost effective ratio, ICER